「日本人の夫から暴力を振るわれている。でも、在留資格のことを考えると、逃げていいのか分からない」
そんな不安を抱えている外国人の方は、決して少なくないと思います。パスポートを取り上げられ、日本語もあまり話せず、在留期限も迫っている――そんな状況では、なおさら「相談したら不利になるのでは」「離婚したらもう日本にいられないのでは」と、身動きが取れなくなってしまいますよね。
でも、まず知っておいてほしいことがあります。国籍や在留資格に関係なく、DV被害者としての保護は受けられます。 そして、離婚や別居をしたからといって、すぐに在留資格を失うわけでもありません。
この記事では、外国人配偶者がDV被害に遭ったときに使える制度と、在留資格について気をつけたいポイントを、順を追って説明します。
具体例「日本人の夫から暴力を受けている」というケース
例えば、以下のようなケースで考えてみます。
- 日本人の夫と結婚して約2年
- 在留資格は「日本人の配偶者等」(在留期間1年)
- 最近、夫から暴力を振るわれるようになり、身の危険を感じている
- パスポートは夫に取り上げられている
- 日本語があまりできず、仕事もしていない
- 在留期限が残り少ない
- 夫婦の間に子どもはいない
このような状況の方に向けて、①安全の確保、②生活の支援、③在留資格の3つの観点から整理していきます。
① まずは安全の確保を ― DVの相談・保護は外国人にも適用される
「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(配偶者暴力防止法)は、国籍や在留資格を問わず、日本国内のすべての外国人に適用されます。 これは法律上明記されている扱いです。
つまり、在留資格が不安定であっても、次のような支援を受けることができます。
- 配偶者暴力相談支援センターでの相談
- 緊急時の一時保護(女性相談支援センター、または委託を受けた民間シェルターなど。費用はかかりません)
- 裁判所への保護命令の申立て(接近禁止命令や、住居からの退去命令など)
相談は、内閣府の「DV相談+(プラス)」(0120-279-889、24時間電話対応、オンライン・チャットは10言語の外国語に対応)や、全国共通の「DV相談ナビ」(#8008)から、最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつなげてもらえます。
「相談したら入管に通報されてしまうのでは?」という不安について
在留資格を持たない方の場合、「相談すると入管に通報されるのでは」という不安から、相談をためらってしまうケースも心配されています。この点について法務省の通達は、通報することで行政機関本来の目的が果たせなくなるような例外的な場合には、通報によって守られる利益と、行政機関としての職務遂行という公益とを比較して、個別に判断できるとしています。実際に通報される例はごく稀とされています。とはいえ、状況は個々に異なりますので、相談の際にこの点についても率直に確認してみるとよいでしょう。
② 自立に向けた支援 ― 法律扶助・福祉制度も利用できる
安全を確保した後は、生活の立て直しに使える制度もあります。
- 法律扶助
資力基準など一定の要件を満たせば、法テラス(日本司法支援センター)による民事法律扶助を利用して、弁護士費用の立て替えを受けながら保護命令の申立てや離婚手続きを進めることができます。法テラスでは、DV・ストーカー・児童虐待の被害者(またはそのおそれのある方)向けに、資力の少ない方は相談無料で弁護士相談を行っています。 - 生活保護
外国人は制度上の対象そのものではありませんが、入国後しばらく経って生活に困窮するようになった外国人については、一般の方に準じた扱いがされています。 - 児童扶養手当
国籍による支給制限はなく、外国人も受給対象になり得ます(ただし日本国内に住所がない場合は対象外です)。 - 住所変更
加害者に居場所を知られないよう、住民票の閲覧・交付を制限する措置もあり、この措置は外国人にも適用されます。
③ 在留資格はどうなる? ― 別居・離婚手続き中でも、すぐに不許可にはならない
ここが一番気になるところだと思います。結論から言うと、「日本人の配偶者と別居している」「離婚手続き中である」というだけで、直ちに在留期間の更新が不許可になるわけではありません。
書類がそろわなくても、まずは申請を
配偶者にパスポートを取り上げられているなど、暴力が原因で必要書類を用意できない場合でも、その事情を出入国在留管理庁に説明したうえで、申請・審査してもらうことが可能とされています。
申請が認められる場合には、パスポートの代わりとなる在留資格証明書の交付を受けられる扱いもあります。
「形だけの結婚」ではないかが実質的に審査される
最高裁判所の判例(最判平成14年10月17日)は、「日本人の配偶者等」の在留資格が認められるためには、単に法律上婚姻関係があるだけでは足りず、実際に配偶者としての活動(=婚姻関係の実質)を伴っていることが必要だとしています。逆に言えば、婚姻関係が法律上残っていても、社会生活上の実質を失っている(=完全に破綻している)と判断されると、更新が難しくなる、ということでもあります。
ただし、この「実質を失っているかどうか」は、個別の事情を総合的に見て判断されます。裁判例では、次のような傾向が見られます。
- 配偶者からの暴力が原因で別居している場合、同居義務は当然軽減されると考えられる
- 別居期間が長期にわたり、今後の同居や関係修復の見込みがほとんどない場合は、実質的な破綻と判断されやすい
- 一方で、別居期間中も生活費のやり取りが続いていたり、関係修復に向けた行動があったりする場合は、破綻とまでは言えないと判断された例もある
つまり、「別居している」「離婚を考えている」というだけで諦める必要はなく、暴力を受けて別居に至った経緯を、できるだけ具体的に説明することが大切です。
④ 今後も日本での生活を続けたい場合 ― 在留資格の変更
離婚した場合や、婚姻関係の実質が失われていると判断されそうな場合でも、引き続き日本での在留を希望するのであれば、在留資格の変更を検討することになります。
主な選択肢
- 就労系の在留資格(「技術・人文知識・国際業務」など)
該当する職種に就職でき、学歴などの要件を満たせる場合 - 「留学」
日本語学校などに進学する場合(学校によっては年齢制限や入学時期の制限があるため要確認) - 「定住者」(いわゆる離婚定住)
日本人・永住者・特別永住者である配偶者と離婚(または死別)した後も日本での在留を希望する場合の、告示に定めのない特別な枠
「定住者」への変更が認められるかどうかは、次のような点が重視される傾向にあります。
- 独立した生計を営めるだけの資産や技能があること
- 日本人配偶者との間に生まれた子どもを、日本国内で養育していること(実子がいなくても、実質的な婚姻期間がおおむね3年以上あれば認められる可能性があるとされています)
- 離婚に至った事情。暴力が離婚の原因である場合、「定住者」が認められる可能性はより高くなるとされています
婚姻期間が短い場合や、日本人配偶者との間に子どもがいない場合は、「定住者」への変更が難しくなる傾向がある点には注意が必要です。その場合は、上記の就労系や留学など、他の在留資格への変更もあわせて検討することになります。
なお、配偶者と離婚・死別した場合は、その事由が生じた日から14日以内に出入国在留管理庁への届出が必要です(「定住者」の資格を持つ方は届出不要です)。
まとめ
- DVからの保護は、国籍や在留資格に関係なく受けられる。まずは配偶者暴力相談支援センターやDV相談+に相談を
- 別居中・離婚手続き中というだけで、在留期間の更新がすぐに不許可になるわけではない
- 必要書類が整わない場合も、事情を説明したうえで申請・審査してもらえる
- 引き続き日本に住みたい場合は、就労系の在留資格や「留学」、あるいは離婚定住としての「定住者」への変更を検討する
- 離婚・死別のときは、14日以内に出入国在留管理庁への届出が必要(「定住者」の方は不要)
置かれている状況は一人ひとり異なり、在留資格の判断も個別の事情を丁寧に見ながら行われます。まずは安全を確保したうえで、配偶者暴力相談支援センターや法テラス、あるいは外国人の相談に慣れた弁護士に、早めに相談することをおすすめします。
いかがでしたでしょうか。この記事が一人でも多くの方の参考になれば幸いです。
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参考法令等:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律1条・2章・3条・10条・11条・28条の2、出入国管理及び難民認定法別表第1・別表第2・19条の16、児童扶養手当法4条
参考文献・出典
- 内閣府男女共同参画局「配偶者からの暴力被害者支援情報」(gender.go.jp)
- 内閣府男女共同参画局「配偶者等からの暴力の被害者への支援」(gender.go.jp)
- DV相談+(プラス)(soudanplus.jp)
- 出入国在留管理庁「配偶者に関する届出」(moj.go.jp)
- 出入国在留管理庁「在留資格『定住者』」(moj.go.jp)
- 日本司法支援センター(法テラス)
- 最高裁判所平成14年10月17日判決(民集56巻8号1823頁)

