夫や妻が外国籍で、しかもその国には「離婚」という制度自体がない――。そんな話を聞くと、「じゃあ一生この結婚から抜け出せないの?」と不安になってしまいますよね。
でも安心してください。夫婦そろって日本に住んでいるようなケースでは、日本の裁判所を使って離婚できる可能性が十分にあります。
この記事では、「離婚制度がない国」の代表例としてよく挙げられるフィリピンを例に、外国人配偶者との離婚がどんな仕組みで進むのかを、できるだけかみくだいて説明します。
具体例で考えてみましょう(フィリピン人配偶者のケース)
離婚の具体例として、以下のようなケースで考えてみます。
- 夫:フィリピン人(自堕落な生活と暴力があり、離婚したい妻)
- 妻:日本人
- 二人とも今は日本に住んでいる
- ところがフィリピンの法律には、そもそも「離婚」という制度がない
こういう状況で、日本の家庭裁判所の調停や裁判で離婚することはできるのでしょうか?
ポイントは2つだけ(管轄と準拠法)
国際結婚の離婚を考えるとき、ややこしく感じるかもしれませんが、実は大きく分けて確認することは2つだけです。
- そもそも日本の裁判所で扱ってもらえるのか?(=管轄の話)
- 扱ってもらえるとして、どこの国の法律で判断されるのか?(=準拠法の話)
この2つさえ押さえれば、全体の流れが見えてきます。順番に見ていきましょう。
① まずは「日本の裁判所で扱えるか」
以前は、外国が絡む離婚事件を日本の裁判所で扱えるかどうかについて、はっきりしたルールが法律に書かれておらず、その都度、過去の判例などを参考に判断されていました。
これでは分かりにくいということで、平成30年(2018年)4月18日に「人事訴訟法等の一部を改正する法律」という法律ができ、平成31年(2019年)4月1日から実際に運用が始まりました。この法律改正によって、「こういう場合は日本の裁判所で審理できます」というルールが、条文としてはっきり定められたのです。
今回のケースのように、夫婦がどちらも日本に住んでいる場合は、この新しいルール(人事訴訟法3条の2第1号)にあてはまり、日本の裁判所に扱ってもらえることになります。ざっくり言えば「夫婦が日本で暮らしているなら、日本の裁判所で離婚の話し合いや裁判ができる」と考えて大丈夫です。
② 次に「どの国の法律で判断されるか」
日本の裁判所で扱えるとわかっても、次に気になるのが「日本の法律で判断してもらえるの? それともフィリピンの法律?」という点です。ここで関わってくるのが「法の適用に関する通則法」という法律の25条・27条です。
少し細かいルールはあるのですが、簡単にまとめると――
夫婦が一緒に日本で暮らしている(または日本人である配偶者がずっと日本に住んでいる)なら、基本的に日本の法律(民法)で離婚を判断してもらえる
ということになります。今回のケースも、夫婦がともに日本在住なので、日本法が適用されると考えられます。つまり「フィリピンには離婚制度がない」という事情に縛られることなく、日本の一般的な離婚の手続き・条件で進められる可能性が高いということです。
もしフィリピンの法律が適用されてしまったら?
「いや、うちの場合は日本法じゃなくてフィリピン法が適用されそうだ」というケースもあるかもしれません。その場合でも、まだ道はあります。
日本には「公序良俗」という考え方があり、外国の法律をそのまま適用すると日本の社会常識に照らして著しくおかしい結果になる場合(たとえば「離婚を一切認めない」という結論が、本人にとってあまりに酷である場合など)には、その外国の法律の適用を止めて、代わりに日本の法律を使うことができます(法の適用に関する通則法42条)。
実際、過去にはこの考え方を使って、フィリピン人の夫と日本人の妻の離婚が認められた裁判例があります。
- 東京地裁 昭和60年6月13日判決:フィリピン人夫との離婚について、日本法を適用して離婚を認めた
- 新潟地裁 昭和63年5月20日判決:一方で、こちらの事案では「まだ夫婦関係が破綻しているとは言えない」として、離婚が認められなかった
つまり、「外国法を排除して日本法で離婚できるかどうか」は自動的に決まるのではなく、夫婦関係が実質的に破綻しているかといった個別の事情によって結論が変わる、ということです。すでに離婚を認めた審判が出ている場合、その審判にもとづいて離婚届を受け付けてもらえる扱いになっているようです。
なお、フィリピンの法律(家族法26条2項)には、「フィリピン人と外国人の夫婦が外国で正式に離婚し、外国人側が再婚できるようになったら、フィリピン人側もフィリピンの法律にしたがって再婚できるようになる」という規定があります。日本で離婚が成立した場合にこの規定がどう関わってくるかも、あわせて確認しておくと安心です。
実際の手続きの流れ
ステップ1:まずは「調停」から
日本では離婚の裁判をいきなり起こすことはできず、原則としてまず家庭裁判所に「調停」を申し立てる必要があります(これを「調停前置主義」と言います)。これは相手の国籍に関係なく、日本国内の手続きとして適用されるルールです。
ただし例外もあります。相手の国籍や事情によっては、「日本で調停をしても、相手の国でその結果が認められないおそれがある」といった場合、調停を飛ばしていきなり訴訟を起こせるという考え方も有力とされています。
ステップ2:どこの家庭裁判所に申し立てる?
- 調停:相手(配偶者)の住所地を管轄する家庭裁判所、または夫婦が話し合って決めた家庭裁判所
- 裁判(訴訟):管轄が特に決まらない場合は、東京都千代田区が住所地とみなされ、東京家庭裁判所が担当することになります
ステップ3:費用について
調停が不成立になった通知を受け取ってから2週間以内に訴訟を起こせば、調停のときに払った手数料が、そのまま訴訟の手数料として扱われます(二重に払わなくてよい、ということです)。
ステップ4:離婚が成立したら「届出」を忘れずに
調停が成立した日、または裁判が確定した日から10日以内に、本籍地または住んでいる場所の役所に離婚届(「報告的届出」と呼ばれるもの)を提出する必要があります。
ステップ5:フィリピン側の手続きも必要
日本で離婚が成立したら、それで終わりではありません。在日フィリピン人の場合、
- 外務省の証明を受けた戸籍謄本を用意する
- その翻訳文をつける
- フィリピンのパスポートを持参して、フィリピン大使館領事部で認証を受ける
- そのうえで離婚の届出を行う
という流れが必要とされています。細かい必要書類や最新の手続きは変更されている可能性もあるため、必ずフィリピン大使館に直接確認することをおすすめします。
まとめ:4つだけ覚えておけばOK
- 相手の国に離婚制度がなくても、夫婦が日本に住んでいれば、日本の裁判所で手続きできる可能性が高い
- その場合、日本の法律(民法)で離婚を判断してもらえることが多い
- 万が一、相手国の法律(離婚を認めない法律)が適用されそうでも、あまりに酷な結果になる場合は日本の法律に切り替えられる仕組みがある
- 手続きは「まず調停、それから届出(日本側・相手国側の両方)」という流れ
国際結婚の離婚は、国内同士の離婚に比べて確認すべきことが多く、事情によって結論が変わることもある分野です。実際に進める際は、こうした渉外離婚に詳しい弁護士や、管轄の家庭裁判所、相手国の大使館に早めに相談してみることをおすすめします。
いかがでしたでしょうか。この記事が一人でも多くの方の参考になれば幸いです。
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参考法令等:法の適用に関する通則法25条・27条・42条、人事訴訟法3条の2第1号・4条、家事事件手続法245条・257条・272条、戸籍法63条・77条
参考文献・出典
- 法務省「人事訴訟法等の一部を改正する法律について」(moj.go.jp)
- 馬場・澤田法律事務所「人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄」(babasawada.com)
- 最高裁判所事務総局家庭局監修『渉外家事事件執務提要(下)』(法曹会、平成4年)
- 榎本行雄編著『国際結婚の生活百科』(明石書店、平成10年)

