「母国で激しい戦争が始まり、命からがら日本へ逃げてきた」
「国に帰れば、無差別に命を奪われる危険がある。でも、日本の難民認定は厳しすぎると聞いてあきらめている」
母国での紛争や暴力から逃れ、わらにもすがる思いで日本へたどり着いた外国人の方の中には、このような深い恐怖と不安を抱えている方が少なくありません。日本で安全に暮らし続けたいと願いつつも、「難民として認められるのは奇跡に近い」という現実を知り、明日からの生活に希望を持てなくなっているのではないでしょうか。
たしかに、日本の難民認定手続は非常に厳格であり、認定される方は極めて少ないのが現状です。しかし、絶望する必要はありません。令和5年(2023年)の入管法改正により、新たな選択肢となる「補完的保護対象者の認定制度」がスタートしました。
この記事では、国際業務専門の行政書士が、この新しい制度の仕組みや、認定されることで得られるメリット、そして申請の具体的な手続き方法について、最新の法制度に基づき分かりやすく徹底解説します。
難民認定の壁を越える新しい光。「補完的保護対象者」とは?
補完的保護とは、難民条約が定める「難民」の定義には当てはまらない場合であっても、国際的な保護を必要とする方に対して、日本国内での法的な地位を与えて保護するための新しい枠組みです。
「難民」との決定的な違い
日本の入管法では、難民条約に沿って、難民を「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、又は政治的意見」の5つの理由のいずれかによって迫害を受けるおそれがある人と定義しています。 しかし現実には、この「5つの理由」には直接当てはまらないものの、国が戦争状態で帰国すれば無差別に命を奪われる危険があるなど、保護を必要とする人々がたくさんいます。
入管法に新設された補完的保護対象者の定義では、この難民条約上の「5つの理由」は不要とされています。以下の条件を満たせば、保護の対象として認められる可能性があります。
- 「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」を有していること。
- 国籍国の外にいて、国籍国の保護を受けられない、又は保護を希望しないこと(無国籍者の場合は常居所国に帰れない、又は帰ることを希望しないこと)。
どのような人が対象になるのか?(紛争避難民など)
出入国在留管理庁は、補完的保護対象者について「紛争避難民など、難民条約上の難民ではないものの、難民に準じて保護すべき外国人」であると説明しています。国会審議の場でも、「今般のロシア連邦によるウクライナ侵略のように、戦争等に巻き込まれて命を落とすおそれがある者等」が具体例として挙げられました。
実際に、制度が施行された令和5年12月から令和6年末までの運用状況を見ると、認定された方の約97%がウクライナ出身者となっています。その他にも、シリア、ミャンマー、スーダンなどの出身者も認定されています。このように、母国が内戦や紛争状態にあり、帰国することが著しく危険な状態にある方々が対象となっています。
認定されると得られる3つの絶大なメリット
補完的保護対象者として認定されると、難民とほぼ同等の、非常に手厚い待遇での保護を受けることができます。
1. 安定した在留資格「定住者」が付与される
補完的保護対象者として認定されると、認定証明書が交付され、原則として在留資格「定住者」(在留期間5年)が付与されます。就労制限のない安定した在留資格を得ることで、日本で安心して働き、生活の基盤を築いていくことが可能になります。
2. 永住許可への道が大幅に緩和される
将来にわたって日本で暮らしたいと考えた場合、最終的には永住許可を目指すことになります。通常、永住許可を受けるためには「10年以上の在留」や「独立して生計を立てる能力(十分な収入など)」といった厳しい要件が求められます。 しかし、補完的保護対象者の認定を受けると、この要件が大きく緩和されます。10年以上の在留は「認定後5年以上の継続した在留」に短縮され、さらに「独立生計資産又は技能」の要件も不要とされます。
3. 日本定住のための支援プログラムが無料で受講できる
日本政府の委託を受けた公益財団法人アジア福祉教育財団難民事業本部(RHQ)が行っている「日本定住支援プログラム」を、条約難民と同様に受講することができます。 このプログラムでは、長時間の日本語教育(572時限)や生活ガイダンス、仕事の紹介などが無償で提供されます。プログラムに参加している期間中は生活援助金も支給されるため、言葉が通じない日本での新たなスタートを強力に後押ししてくれます。
※注意点:難民認定者とは異なり、補完的保護対象者には「難民旅行証明書」の交付はありません。もし母国からパスポートの発給を受けられない場合は、日本の再入国許可書を利用して出国することになりますが、渡航先の入国審査で時間がかかるなどのハードルがある点には注意が必要です。

申請のルートと具体的な手続き方法
補完的保護対象者の認定を受けるための申請ルートには、大きく分けて2つの方法があります。
ルート1:難民認定申請とセットで審査を受ける
まず難民認定申請を行い、その手続きの中で審査を受ける方法です。もし難民としては「不認定」となってしまった場合でも、自動的に補完的保護対象者としての要件を満たしているかどうかの審査が行われます。
ルート2:補完的保護対象者のみを単独で申請する
「自分は難民条約の5つの理由には当てはまらないが、紛争から逃れてきたので保護が必要だ」ということが明らかな場合は、難民認定申請をせずに、最初から補完的保護対象者の認定申請だけを単独で行うこともできます。この場合、難民に該当するかの審査は行われません。
手続きの流れと審査期間
どちらのルートであっても、原則として申請者本人が、住所や現在地を管轄する地方出入国在留管理局に出頭して申請を行います。申請用紙は「難民・補完的保護対象者認定申請書」という一体の書式になっており、冒頭でどちらの申請を行うかチェックを入れる仕組みです。
提出書類には、申請書のほかに、なぜ保護が必要なのか(母国でどのような危険があるのか)を詳しく書いた陳述書や、それを裏付ける客観的な証拠資料が含まれます。
申請後、難民調査官によるインタビュー(面接)が行われ、あなたの事情が直接審査されます。
補完的保護申請のみをした場合の一次審査の平均処理期間は約2.6か月となっており、難民認定申請(平均約22.3か月)と比べると非常に速やかに審査が進む傾向にあります。
もし認定されなかった場合は?
審査の結果、認定されない処分が出た場合は、難民申請の時と同様に「審査請求」という不服申立ての手続きを行うことができます。 また、難民にも補完的保護対象者にも該当しないと判断された場合であっても、日本の滞在歴や人道的な理由から、日本に在留することが認められる「在留特別許可」が別途得られるケースもあります。
世界の潮流と日本での注意点(なぜ立証が重要なのか)
国際社会では、難民条約における「追放・送還禁止原則(ノン・ルフールマン原則)」だけでなく、拷問禁止条約や強制失踪条約といった人権条約に基づいて、危険な国への送還を禁止し、その代わりに国内法上の地位を与える「補完的保護」が広く認められています。EU諸国などではすでに明確な基準が設けられ、無差別暴力の脅威から逃れる人々を保護しています。
日本もこの世界的な潮流に乗り、ようやく制度を整えました。入管法でも拷問や強制失踪の危険がある国への送還を明確に禁止しています。
しかし、手放しで安心できるわけではありません。法律上は「迫害を受けるおそれ」を証明する必要があり、この解釈の運用によっては、単に「母国が戦争をしている」という理由だけでは認定されないリスクも残っています。
だからこそ、「自分自身が帰国した場合に、誰から、どのような危害を加えられる具体的なおそれがあるのか」を、日本の入管が納得できる形で、客観的な証拠を添えて論理的に主張・立証することが絶対に不可欠なのです。
まとめ:命を守るための手続き。一人で悩まず専門家へご相談を
母国での日常を奪われ、言葉も文化も違う日本へ逃れてきたあなたの苦しみや恐怖は、計り知れません。新しくできた「補完的保護対象者」の制度は、あなたのような方を守るための強力なセーフティネットとなる可能性があります。
しかし、日本の入管手続きは非常に複雑で、提出する書類の内容やインタビューでの受け答えが、あなたの今後の人生を左右すると言っても過言ではありません。ご自身だけで悩みを抱え込み、不十分な準備のまま申請をしてしまうことは、取り返しのつかない結果を招く恐れがあります。
「自分は対象になるのだろうか?」
「母国の危険性をどうやって証明すればいいか分からない」
「難民申請をすべきか、補完的保護だけを申請すべきか迷っている」
少しでも不安を感じたら、ぜひWILL行政書士事務所の無料相談をご利用ください。
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